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オベリン年代記最終章

解説

王立通訳 マリレンジャアズの浪人某ロウニンエツクス

セスのトオム、我等の黙示録

この文書はオベリンの宮廷魔導師セスがその魔力を用いて書きしるした「オベリン年代記最終章」なる古書トオムの全訳である。

我々が三々五々そこより去ってから如何にしてあの世界が終末を迎えたのかという顛末てんまつが描かれている。それは黄昏に向かうオベリン世界の物語であり、確かにその世界で共に生きた我々全ての黙示録でもある。

およそ黙示録的なる書をそれと決する物は書き記す作業をかす言葉の奔出ほんしゅつであり切迫した筆致である。このことは過去に多くの文芸評論家によって指摘されているが、かの新約聖書「ヨハネの黙示録」に於ては第三の段落で「時が近づいているからである」(For the time is near、「最早時は無い」とも訳される)として切迫した状況を暗示している。セスの書に於ても差し迫った危機と巻き起こる事件が彼の予想を超えた速さで進行し彼に残された時間が無いことがその筆致の切迫感をかもし出しており、序文の最期の部分にこの書が如何なる状況で書かれたのか記されている。

原文の文体は大変に入り組んだ装飾に彩られる雄渾ゆうこんなものであり、辞書を片手にそれを読むのならば内容は理解されようとも実際に我々の理解できる文章へと書き写すのは困難を伴う。小生が翻訳を決意したのはここに描かれた基本的な事実だけではなく描写そのものに様々なおもむき横溢おういつしており我々も等しく味わう価値があろうと考えたためである。

この書全体は序文と六個の章建てからなり、必要に応じて絵詞えことばを加えて構成されている。序文ではセス自身の生立ちと悔恨を交えつつ導入についての記述があり、第一章ではかつてセスの宿敵であった、死せるプルウグが現れてベインと戦う場面をセスが彼の水鏡("Scrying Bowl"、本来は占卜師せんぼくしが用いるはちであり、水に溶かした様々な染料がかもす形姿により千里眼の効用が得られるという。我々が用いた"Orb of Seeing"に近いものであろう)によって観察する様が描かれている。第二章ではさらにプルウグの下へこれまた女王レイエルの陰謀により一時セスから宮廷魔導師の座を奪ったドミヌスがベインの一員としてやって来て戦う様が描かれる。この二つの章を読み絵詞えことばを観る限り、死霊となったプルウグはもっぱらネクロマンシイを術策としているようで、攻撃はほとんどアンデツドに任せている。元々プルウグを蘇生したのは何処かの降霊師であるが、いつぞや我々もネクロマンサアなる魔導師を目撃したことがあるので彼がその人物であるのかも知れない。

セスはプルウグはもちろん、ドミヌスの技量をも高く評価しているようだが、ドミヌスはベインの一味に拉致されて何らかの洗脳にあたる行為を施されたということを暗示する記述がある。これが事実とすれば大変興味深い。小生は、ベインが当初王立護衛官にして剣聖のウザク卿を首領とするレツド団を襲った時、重ねてドミヌスを探し求めていたことがあり、ベインは裏でドミヌスと通じていてさらには女王とドミヌスがベインを撃退して見せることで女王の権勢を臣民に印象付けようとしていると考えていた。今回この書によってベインが全く異なる起源を以てオベリン世界を蹂躙しようとしていたことが明らかとなった。

第三章では、前半で前二章の戦いで勝利したプルウグが何故か消えて行き、その後水鏡からなにがしかの暗い運命が王国に迫っていることが見て取れたと描かれている。更に後半ではまた一人の魔導師評議会ソオサラアズカウンシルの残党オウレイルの暗躍とセスの決戦の様が陰鬱な描写で記されている。ここに至って破滅の予感はいよいよ濃密なものとなり、第四章では宮廷道化ココが遂にその本性を現し、国王イアンを爆殺、彼が魔導師評議会ソオサラアズカウンシルを含む多くの謀略の黒幕であった事が明かされる。第五章ではセス自身がココを討たんとするものの、黒龍を召喚され死した後も彼に捕らえられ、引き回されて国土の破壊と荒廃の目撃者にされた悲哀が語られる。第三章でプルウグが再び消えて行ったことの真意は不明であるが、そもそも魔導師評議会ソオサラアズカウンシルなるものはいかなる起源を持つのだろうか。この書の後半でそれが宮廷道化ココの創設したものであることがココ自身の口から語られた以外の記述は無い。ここにその歴史を手短にまとめてみよう。

ソオサラアズカウンシル(魔導師評議会)はこちらの年代で一昨年後半に結成されており、当初は他のギルドに加盟していた魔導師をも勧誘していた。この辺りの経緯は以下のラグナロクのテロンによる書物に記されている。

またトラクサス僧正の書にもこの記述がある。

ラグナロクの奉ずる教義ドクトリンである終末論はこのトオム全体を通じて影を落としておりそれについてのココとセスのやり取りが見られる。またセスがオウレイルの革袋より発見した走り書きにもそれについての記述があると示唆されている。この古書トオムの末葉の理解にはラグナロクの書物ホウムペイジを参照することが必要である。

魔導師評議会ソオサラアズカウンシルがオベリンの住人に明確に宣戦を布告したのはそもそも、こちらの時間で昨年初頭、南極のアイスダンジオンが何者かに封鎖され、中には黒龍ブラツクドラゴンが溢れるという事態を発端とする。程なくそれがプルウグの謀ったものであることが判明し、彼は渾沌の指輪カオスリングを用いて黒龍ブラツクドラゴンを召喚、「黒き氷の死」アイシイブラツクデスなる儀式魔術を執り行わんとした。これの目的とする所は当時の国王オウスチンの殺害であると考えられる。この呪法はオウスチンを病床へと追いり小生はその御様態を気遣っていた。プルウグの呪法の顕現けんげんを悟ったセスは水晶髑髏クリスタルスカルの回収を臣民に依頼、それを用いた儀式魔術を執り行いプルウグは羊が原にて義勇軍に討伐された。また彼の郎党であるピイトなる魔導師はアイスダンジオンに篭城していたが、龍石の指輪ドラゴンストンリングを装備した剣聖ウザク卿に討たれ、ウザク卿はこれを期に王立護衛官に推挙された。これが「プルウグ戦役」クリスタルスカルクエストである。

さらにグレイルは幹部の一人であったが、彼の妻エデイスを都の楽士がくしにして魔導師の詠シユガアが誤って殺害したことを発端として、魔導師評議会ソオサラアズカウンシルはオベリン全土を恐慌に陥れ、とりわけ同じく魔導師の組合ギルドである啓明結社エンライテンドを目の敵とし、主として都の住人を無慈悲に攻撃した。比較的中間的な存在であり盗賊であったブリガンドから離脱せんとしていた女治癒師スウザンブリツジと恋に堕ちた疾風特攻の戦士ステフアンは彼女からグレイルが死せるエデイスと再会せんとして都の墓苑にやって来るとの情報を得、オベリンの臣民は洞穴に潜むオウレイル討伐隊と二手に分かれて義勇軍を編成、これを攻撃、グレイルは死せるエデイスの説得により自ら死を選ぶのであった。これが世に言う「グレイル戦役」である。

グレイル戦役終息後、王国は一瞬平穏を取り戻したように見えたが実は決戦の最中にオウスチンの妃レイエルと通じた悪名高きならず者集団グリフインの刺客しかくサムがオウスチンを殺害していたことが判明、我々の勝利の雄叫びは瞬時に嘆きへと転じた。こちらの時間で昨年五月十二日のことであった。オベリンの臣民は喪に服した。レイエルは王位の継承を宣言、グリフイン構成員による国王暗殺によりミンスにある彼等のアジトは召し上げられ黒龍ブラツクドラゴンが放たれたが、国王暗殺の実行犯サムは何故か不可解なレイエルの恩赦を得て断罪を免れた。当時後の国王イアンはセスと共に放浪の旅に出ており、王宮には新たな魔導師としてドミヌスが就任、彼を付け狙うベインなる集団も出現した。イアンは帰着後女王と激しく争い、やがて臣民は女王派と王党派に別れて戦うことになった。その後の動向、そしてドミヌスがベインに拉致される際の状況については特攻僧侶オイオイ和尚の歴史書に詳しい。是非参照されんことを。

セスのトオムを読み解くにはこれらの歴史を踏まえる必要がある。

しかしながら多くの疑問がある。サムは女王とどのような関係にあったのか。小生は王宮の王座の間へと訪ね行った時、サムがただ一人そこにいて女王を待っているのだと言い放ったのを目撃したことがある。さらに魔導師評議会ソウサラアズカウンシルと宮廷道化ココの関わりについては「プルウグ戦役」クリスタルクエスト後回復した国王オウスチンが主催するカルス島ギルドホウル争奪戦の際、王立通訳として参上した小生等に漏らした御言葉の中にそれとなく示唆するものがあった。次ペイジ以降の記録を参照あれ。

○それは準決勝第二試合の前後のこと○
(King Austin): Ronin X/浪人某(ロウニンエツクス)
(King Austin): Can you juggle?/汝は曲芸が出来るか?
(Telemachos): lol/笑止
(Ronin X): Its nice to seeing you are in well, your majesty./
お元気な陛下にお会い出来て喜ばしく思います。
(King Austin): My Fool has taken ill./我が道化は病に伏しておる
(Ronin X): oh/嗚呼
(King Austin): Travis does not juggle./トラビスは曲芸をせぬ。
(Ronin X): Ill be juggler if you wish, your majesty./
陛下、仰せとあらば曲芸師となりましょう
(King Austin): I will survive..../我は生き延びる・・・(意味不明)
(Travis): I'm the gaurd not the jester my lord./
陛下、我は護衛官、道化では御座いません。
(King Austin): Regretfully yes, Travis./残念ながらそうだのう、トラビス。
(Nabechun): Ronin san kakko E.../(?)
(King Austin): Is there no one that will prance around like Coco?/
誰ぞ、ココの如く飛び跳ね回る者はおらぬのか?
(Ronin X): It is pity, your majesty./無念で御座います、陛下。
(King Austin): It's not easy being the King./王であることも楽ではないのだぞ。
(Ronin X): Oh/嗚呼
(Travis): Maybe seth if he drinks enough ale my lord./
恐らくセスがエイルを強かに飲まば(それをやりましょう)、陛下。
(King Austin): Ah, good point Travis./嗚呼、トラビスなるほど。
(King Austin): We must give him ale for some prancing./
我等は彼にエイルを飲ませて飛び跳ねさせようぞ。
(Ronin X): Great idea, your majesty./陛下、良い考えで御座います。
(King Austin): I thought it might be./思うにそのようだな。
(Ronin X): I have 50 ale/愚生は50本程エイルを所持しております。
(Ronin X): ah/嗚呼(セスが次なる競争の選手を連れて戻る)
(King Austin): Ahhh, the rest of the guilds are here./残りのギルドがこれに。
(momo-f): Hello/こんちわ
(spring): hi King/は〜い王様
(sarukiti): hi-/はいー
(King Austin): Seth, if you will do the honors./セス、汝がその名誉をかけるなら
〜

(King Austin): Hold please.
(King Austin): Get ready......
(King Austin): And......
(King Austin): Begin!
(Seth): Go!!
(King Austin): Spread out, my subjects. :)
○次の競争が始まり、選手は離れていった○
(Seth): :)
(King Austin): Give them room to drop their flags. =)/
彼等が旗を置く場所を開けるのだ(チラーリ)
(Ronin X): :)/ニコーリ
(King Austin): Seth, have you learned to juggle yet?/
セス、汝は曲芸を習ったことは?

(Seth): My Lord?/陛下、なんですと?
(King Austin): Juggle, like Coco./曲芸じゃよ、ココのような。
(King Austin): The fool has taken ill./我が道化は病に伏しておる。
(Seth): I do not preform trick SIre./手品は出来ませぬが。
(King Austin): There is no one to prance and juggle for me./
誰も軽業や曲芸を為すものがおらぬのだ。
(King Austin): It's not easy being the King./王であることもまた辛いのだ。
(Ronin X): I was a boomerang juggler, before, your majesty/
陛下、愚生は以前、ブウメラン曲芸師で御座いました(ホント)。
○突然の告白に言葉を失う国王○

閑話休題。如何に国王オウスチンがココを寵愛し頼っていたかがこの会話からも読み取ることが出来る。またこの争奪戦はこちらの時間で昨年四月二十六日のことであり、プルウグを巡る「プルウグ戦役」クリスタルスカルクエスト終息後のことでなので、既に「グレイル戦役」の期間に入っていることになる。というわけでまさにその頃からココが宮廷に顔を見せなくなったのだということが理解できる。恐らくは表舞台から隠れて傀儡くぐつであるグレイルとオウレイルを操り、「グレイル戦役」を演出したのであろう。

第四章以降に描かれるココの炸裂する狂気は鬼気迫る物がある。恐らく彼は何らかの術を持ち、隙のある人間を操る能力があったのであろう。そのココも最期は自らの破壊と殺戮の生け贄となった。それこそが彼の望んだ楽園だったのかも知れない。

我が友セスとの想い出

小生は都の一等地に居を構える最古のギルド、マリレンジヤアズに所属する戦士であったがギルドの栄華は今何処いずこ、全ての住人の最長老チムバは既に去り、我が師ジヨオ・スミスも隠遁していた。小生としても戦士としては未熟、形勢不利と見るや即座に罠に頼るひ弱な戦士であり剣技には通じていない。しかしながらそういう小生も王立通訳として数回に渡り王の主催するギルドホウルの競り並びに争奪戦の運営に参加出来たことは大きな喜びであり誇りでもある。その間セスは機敏な判断で王の手足となっていた。最初に小生が通訳に召喚されたのは都の北の小島にあるギルドホウルの争奪戦の時である。神速傭兵カシユウと快男児テレマチヨスの騎士道精神溢れる息詰まる競走、そして戦いが育んだ熱き友情には大いに感動させられるものがあり、その記憶は今も小生の胸を熱くさせる。が、その時小生が召喚されたのはセスの競走についての説明が余りにも分かり難く、結果として細部の正確さを欠いたため神速傭兵カシユウが万全を期すために小生の確認を必要としたというのが真の理由である。これを以てセスの語り口がやや独善的であると言うことも出来よう。

また、カルスのギルドホウル争奪戦には多数のギルドが参加し、白熱の競争が繰り広げられた。古参のギルドであり、渋い構成員を揃えたオメガ。今やこちらの世界で強大な権勢を誇るジエダイ。快男児テレマチヨスの魔導師集団、啓明結社エンライテンド。究極の職人集団、鰻屋本舗ウナギヤ。古参にして高位の戦士を擁する逆しま工場リバアスガラアジ。新進気鋭の武闘派集団黒薔薇。紆余曲折を経た歴史を持ち他の人々から尊敬を込めて呼ばれる数々の技を持つ部族連合トライブ。そして、決して他人の葬儀は受けぬ(絶対死なない)という気概で挑む葬儀屋商会アンダアテイカア。これらが入り乱れる競争を裁くのは只事ではなかった。セスは王と共にこの大仕事を成功させた。小生はこの争奪戦の後半を国王、セスと共に仕切れたことを誇りに思う。最期の決勝戦はさながら一幅の絵画のようで、何れ劣らぬ選び抜かれた手練が持てる秘術の限りを尽くして戦った光景は忘れることが出来ない。

セスは儀式魔術の達人であり、「プルウグ戦役」クリスタルクエストでの集中力に見る如く大技に優れている。しかし実戦の場に於ける戦闘魔導師バトルメイジとしての技量や戦術眼については批判もあり大魔導師グランドウイザアドと称するにはいささか異論もあろう。彼はそれを自覚していたと想う。それが本書トオム序章の「貴殿のまぶたに映るわれが意気盛んな若者と観えたとしても愚かなりと責めぬことを望む。」という記述に繋がっているのだろう。

さて、このようにして我々の生きたオベリンの最初の世界は終末を迎えた。そして今また新たな世界が形作られつつあり最初の開拓者プリベータの募集が締め切られたとの報せが届いた。いつの日にかまた再びその世界で諸兄とお会いできることを夢見ている。

では、また会おう!

浪人某(Ronin X)
王立通訳
マリレンジヤアズ


絵師アツチカによる訳者近影

註:翻訳について

訳出するにあたっては基本的に文語体を試みましたが、所々口語体が入り交じった不完全なものになっています。これはこれ以上文語体にすると英語と同じくらい分けがわからなくなってしまうためです。原文は故意に古めかしい入り組んだ言い回しを用いて難渋に書かれていますが、これは多くの叙事詩に見られる筆致です。今回はその雰囲気を少しでも伝えるため文語体にしましたが、平易な書き方でこれを訳すと非常に間の抜けたものになります。ご要望があれば現代語訳(?)も考えます。

私はとりわけ英語が得意なわけではなく、ましてやネイティブでもなければ外国に住んでもいるわけでもないので、皆さんが主としてアメリカ人の早口に「難しい、分からない」と感じた時には私も「参ったなあ」と感じています。ただ、今回のように翻訳するということであれば、英語もさることながら日本語をどのくらい使えるかということも等しく重要であるということを感じました。出来れば、読んでいただく際には原文と合わせて読んで欲しいと思います。一層興味深く読んでもらえると想います。

参考文献:

セスのトオム原文
http://www.oberin.com/end017/

今回訳出した内容の原文であり対照して読まれるべき第一級資料。必読。

ラグナロクの予言と魔導師評議会ソオサラアズカウンシル創設時の勧誘(テロン)
http://www.freethinkerssociety.org/ragnarok/

解説内にも引用したラグナロクのテロンが魔導師評議会ソオサラアズカウンシルに勧誘される場面もここから参照することが出来る。また最初のペイジの予言に関する記述は必読。

魔導師ラジヤによるプルウグ戦役、グレイル戦役他に登場する人物の解説
http://olive.zero.ad.jp/r2matou/obe_top.html
http://olive.zero.ad.jp/r2matou/m_person.html

オベリン世界で最も完備した生物/怪物/人物の解説文献を有する。
特に魔導師評議会ソオサラアズカウンシル構成員に関する記述は必読。

女王レイエル派と王統派(イアンズ・ファクション)の戦いとその顛末については以下に大僧正オイオイ和尚が絵詞を交えて書き記している。ベインがドミヌスを拉致する下りの記述もある。必読である。

http://oberin.s7.xrea.com/kiso/
http://oberin.s7.xrea.com/kiso/rtq020902/index.html