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オベリン年代記最終章

御関係各位

貴殿がこの書を読んでいるのなら貴殿はすなわち我と気付いているのであろうが、この書に込められし魔力を恐れることなかれ。ほとんど無力なり。嗚呼、皆が我をセスと呼びしことさえ忘れかけていた。貴殿のまぶたに映るわれが意気盛んな若者と観えたとしても愚かなりと責めぬことを望む。われ容貌みためより遥かに年経ている。実のところ我は我自身をが世界の魔法と運命を支配せりと考えていた。最早かように愚かな過ちもなし。

大凡おそらく、我はきらめきと正義の理想に満ちし自らの巧緻天翔こうちあまかけるに酔い、またこの大地の豊饒ほうじょうなる造物が示す馥郁ふくいくたる内実に満たされ過ぎて育ってしまったのだ。何れにせよ、渦巻く出来事はまたたく間に御することあたわずとなり、が世界とわれが敬愛せし人々は去り逝きぬ。悲劇なることそれは必定。

我は「始まり」から話し進めるべきなのだろう。それが最良の場所なるが世の常。しかり、されど我は言い換えよう。我は「終わりの始まり」から話し進めん、と。恐らく我は我が朋輩ゆうじん達の死の語り部となろう。国王オウスチン、彼の気鋭の子息、国王イアンを前章に。されど今、消えつつある我が魔力の筆が急を告げる。先を急がねば。それがありしままに。