オベリン年代記最終章
第三章
全てが終りし時、プルウグは一陣の煙の中に消え入り、屈託無き歌声と哄笑は風に消えて逝った。我はしばしの平穏を得んとて我自身の守護結界へと入りぬ。たとえプルウグが我と我が主の元へと来たらんとて、我はドミヌスのごとき容易い獲物とはならぬ。数週の後、我は我が水鏡にかの死霊の如何なる兆しをも看取ることがなくなった。彼は我の観察と認知を避ける結界へと帰りぬ。我は我が水鏡の縁辺がぬばたまの夜のごとく黒変せるのに気付いた。其は暗黒が世の縁辺に進入せし時の徴なり。我はその意を其が手遅れとなるまで知り得なかった。
その代わりに、幸運の恩寵であろう、森林の多くの警備官と生物の内の一人がまた一つの王国の敵を浮かび上がらせるに足る報せをもたらしたり。狂えるオウレイルがあおによしオベリンの都の南の洞穴を次なる邪悪な企ての根城としていたのだ。町を脅かす彼のまた一つの友軍は専ら蜥蜴人なり。我等が我が生者と共にこれなる災禍より回復せんとて多大なる繃帯を要する事必定。されど、何やら妙なことが我が身に起こっていた。それは我がプルウグの彼の敵をあしらう術に対する驚嘆を未だ拭えぬためか、また我が我自身の戰に落ち着かぬためなのか知れず。なんとか、数年を通じてオベリンの都の臣民が十全に遣り過せた後、我はここで唯今其に終止符を打つべしと結論せり。我はオウレイルに対峙するべく城を後にした。
彼が我の来れるを見ることは無かった。我は我の存在を気取られる事無く彼より数歩の地点まで接近することが出来た。我は彼に呼び掛け之の馬鹿げた事を止めよと諭した。彼は我に向き直り引き攣る嗤いを浮かべながら射るような冷たく厳しい眼差を向けた。そして即ち彼は攻撃を始めた。
凡そ古書なるものには勇猛なる魔導師や誇りに満ちて立つ戦士が雷の電撃を受けて彼の胸は激しく脈打とうとも顔を顰めることなしと描かれる。彼の顏には無慈悲なる決意が刻まれ電撃は滝より落ちて彼を打つ清水程のものでしかないと観える。我は神話を訂正しよう。雷撃は極めて痛烈であり唯の一撃にて人は全ての末端の感覚を失なう。其のような力に撃たれた後にはあらゆる呪法をかけ得る熟練の手が奪われている。それこそが我が幾度となく行ないし術策なり。オウレイルが何故に悲痛なる終末の待つ戦いを選択したのか、我には想像がつかぬ。戦いの間、彼はこれら全てが如何に過ちであり我が彼に許しを請うべきであるかと自らに呟き、合間に我が血脈を呪っていた。我はそれらを受け流し我が仕事を終えた。明白ではあるが我は遅ればせながらも正義を為さんとしていたのだ。
我はこの狂える魔導師の焼け焦げ煙り立つ亡骸を見下ろし、その痛々しく捩れた形姿に哀れなりと感ずる他はなかった。我は為すべき事を為したのだと自らに語りかけた。我は彼の革袋に皺くちゃになった紙片を発見せり。我はその意味を解読せんとし僅かに其を成し得た。屍が闇の中で哀歌を歌わんとする中、何ごとか如何にラグナロクは迫っていたのかそして如何にして道化師が荊の冠を盗もうとしたのかと。我はそれを狂気の男の閑話であるとして退け、墓穴を掘り始めた。
我は地中深く穴を穿ち、彼の亡骸を蹴り入れながらも、我が心は彼の最期の詞を繰り返し紡ぎ滞ることが無かった。我が遂に点を結べし時には既に遅過ぎた。我は呪法を操り今まさに我の死せる友の子息である、友の霊魂が極楽浄土に浮んで逝くのを見送った。我は如何に盲であったのか。
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○互いに激しく電撃を撃ちあうセスとオウレイル
オウレイルが雷撃を放ち、セスが撃ち返し、またオウレイルが撃つ
○ふと手を止めた両者、オウレイルは既に瀕死である
オウレイル: この老いぼれの愚か者が、汝が何をしたか分かっておるのか!!!
○セス、答えて曰く
セス: 汝の恐怖による支配は終りぬ。虚無の支配者よ!
○セス渾身の雷撃がオウレイルを焼き殺す